もう20年以上前の話です。十数年前に定年退職し、今は家でゴロゴロしているだけの父ですが、その頃は某一部上場企業で重役として働いていました。
その頃の父は、家にはほとんどおらず、いても家族と口も聞駆子とも少ないような人でした。
何か話したとしても、それは自分がしたいことを伝えるか、家族への不満を口にするというくらいで、正直、父が家にいると家族みんなの息が詰まるようでした。
それでも、家族のために懸命に働いてくれることは知っていましたし、家族はみんな父を尊敬していました。
家族の心配としては、会社で偉くなってはいるけれど、周りとうまくやれているのだろうか、部下に嫌われてはいないだろうかというものでした。
そんな時、私はたまたま父の会社のそばで開かれた飲み会に参加することになったのです。
私たちがテーブル席で飲んでいると、奥の座敷の会話が聞こえてきました。
耳に入ってくる言葉をなんとなく聞いていると、時折出てくる社名から、その人たちが父の会社の社員だとわかりました。
つい聞き耳を立てていると、会話の中に父の話が出てきたのです。
珍しい苗字で、役職も同じことから、その話が父の話であることは間違いありません。
いったい、どんなことが話されているのだろうか。
馬鹿にされたり、罵られたりしないだろうか。
そんなことを思いながら話を聞いていると、「あの人の下で働きたい」とか「あの人が社長になってくれればいいのに」とか、とにかく父がべた褒めされていたのです。
私はそれが嬉しくて嬉しくて、涙を零しそうになってしまいました。
その日のお酒が最高に美味しかったのは言うまでもありません。