その日私は旅先の沖縄の民宿で晩酌を楽しんでいました。
南国の夜風に乗って庭からは甘い花の香りがしていました。
泡盛をコップにちびちびと、ひとり静かな思索に耽っていました。
するとそこに小さな足音が近づいてきました。
宿の小さな子供さんです。
「おじさん、何してるの?」無邪気な声に、一人酔いを堪能していた私は一瞬いら立ちを覚えました。
しかし子供の純真な眼差しに、そんな気持ちもすぐに溶けてしまいました。
やがて女将さんも加わり、南国特有の緩い空気の中で雑談が始まりました。
子供の質問に答えたり、沖縄の風物について女将さんに教えを乞うたりしているうちに、どこからか穏やかな幸せ感が私を包み込んでいきました。
一人酒に酔うのとはまた違う、心の底からほっこりするような温かな気持ち。
それはひとりじゃない、といった安心感なのかもしれない…初めての場所で出会った他者の存在に、私自身が溶け込んでいくようでした。
壁のない至福の嬉しさに包まれました。
後にも先にもこれっきりで、本当に不思議な体験でした。
ここ沖縄に来てから、こうした偶然の出会いに何度も恵まれている。
辺鄙な場所に旅をするからこそ、日常の発想を離れた新鮮な気づきがもたらされるのだろう。
明日への活力をもらったようで、夜風に包まれながらしばし、そんな思いにふけっていた。